ゲスト:山田理氏(サイボウズ株式会社取締役副社長)/小緑直樹氏(株式会社アスタンス 代表取締役社長)
2013年12月9日に第3回「働き方と組織の未来」ダイアローグセッションを新宿センタービル大ホールにて開催しました。
(ダイアローグセッションの様子)
「未来の働き方はどうなっているのだろうか?」
「人と組織の関係性は、どう変化しているのだろうか?」
毎回、新しい働き方を推進・実践する「企業」と「個人」からゲストスピーカーを各1名お呼びし、未来の「働き方」を双方の視点から考える本セッション。第1回、第2回に引き続き、2度の定員増を経て約120名の方に参加いただきました。ダイアローグでは、参加者同士の活発な意見交換や、全体への発信が続き、最後までとても濃い時間となりました。
登壇者紹介
<企業側ゲストスピーカー>
山田 理(やまだ おさむ)氏:
サイボウズ株式会社 取締役副社長 兼 ワクワク本部長
[プロフィール]
日本興業銀行(現:みずほ銀行)を経て2000年にサイボウズへ入社。財務責任者として同社IPOの実務を全面的に行う。その後、事業拡大に伴い、人事、知財法務、内部統制部門も合わせて担当する中で、人事部門については、一貫して同社の人材採用戦略、人事 制度・教育研修制度の構築を手掛ける。2007年4月に取締役副社長に就任。 現在、サイボウズでは、社員の自主性を重んじて「選択型人事制度」「副業OK!独立OK!」など人事制度を自由な方向にシフトしている。
・サイボウズ株式会社:http://cybozu.co.jp/
・サイボウズのワークスタイル:http://cybozu.co.jp/company/workstyle/
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<個人側ゲストスピーカー>
小緑 直樹(こみどり なおき)氏:
株式会社アスタンス 代表取締役社長
公益財団法人日本ユースリーダー協会 上席研究員
ジャンプ株式会社 マネージャー
株式会社ジョブウェブ 採用戦略事業部 シニアディレクター
[プロフィール]
大学卒業後、ジョブウェブ(新卒採用支援会社)に入社。事業部長を歴任後、第1子の誕生に伴い「毎日息子をお風呂に入れられる生活」を目指し2012年6月に退社。プロジェクト型で複数組織に属する働き方をスタートする。現在、4足のわらじを履き、大手からベンチャー企業に対する採用コンサルティング、高校生・大学生向けにベトナムなどアジアを中心とした海外スタディーツアーの開発・運営に従事。また企業や学生向けに全国で年間70本程度の講演活動も行っている。
・株式会社アスタンス:http://astance.co.jp/
・公益財団法人日本ユースリーダー協会:http://www.youthleader.or.jp/
・ジャンプ株式会社:http://jumpers.jp/
・株式会社ジョブウェブ:http://company.jobweb.jp/
試行錯誤し辿り着いた「選択型人事制度」(山田氏)
1人目は企業側ゲストスピーカーの山田理さん。サイボウズでは、創業から人事制度を試行錯誤してきた。年功序列ではなく成果主義を取り入れ、評価の納得性を得るために目標達成度評価に加え、事業部長が全社員の中でほしい人材に点数を分配する「市場評価」や社員がランダムに選ばれた5人に対して評価を行う「360度評価」を導入したこともあったが、なかなかうまくいかなかったという。
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「市場評価」や「360度評価」を続けていくと、社員は誰を見て仕事をしたらいいのか分からなくなるという状況に陥ってしまいました。上司も部下の評価理由が分からず、上司と部下の信頼関係はどんどん薄れていく。そこで「人を見て働く、人を見て評価する」いう原点に立ち返り、信頼関係を大事にできるような選択型の人事制度を整備していくことになったのです。選択型人事制度とは、①ワーク重視型(裁量労働制)と、②ワークライフバランス重視型(月間残業時間40時間程度)、③ライフ重視型(残業なし、もしくは、短時間勤務)を本人の意思で選択し、会社が認めるという制度です。どの働き方が良い/悪いという話ではなく、お互いの価値観を尊重し合って助け合っていきましょうというものです。選択型人事制度を実施後、時間だけではなく働く場所の選択も必要ではないかということで、在宅勤務を導入しました。在宅勤務導入の目的は『雇用機会の創出』『業務効率の向上』と『ライフ重視の支援』です。時間も場所も自由にすると「社員がサボる、管理できない、情報がもれる」という声があがりましたが「でもそれ本当ですか?」という思いがありました。実際やってみると社員はみんなにサボっていると思われるので、頑張って働くんですよ。アウトプットをより可視化しようとする。現在では時間と場所が自由な働き方として「ウルトラワーク」という制度を導入しています。実際ウルトラワークを使うことで時間と場所に制限がなくなり、休まずに働くことができ、アウトプットが増える結果となりました。
今後は、時間、場所の働き方の選択肢によって、9分類の働き方にチャレンジする予定です。細かく分類し共有することで、本人だけでなく周りの人が、その人がどんな働き方をしたいかということを理解することができ、渡せる仕事が決まってくる。その人が出来ない仕事が分かるとサポートもしやすいし、仕事も渡しやすいのです。
そして、自分の好きな場所で働き、時間を短くすることで、アウトプットが減る場合にはお給料もこれに合わせて調整していく。自分がこういう働き方を選ぶとこれぐらいのお給料になるということを可視化することによって、本人も納得して選ぶことができるようになります。
また現在検討中の施策に、独立支援制度があります。これは、辞める人をサポートするということではありますが、社員が独立する術を身につけることを支援する制度です。今までの雇用責任とはお金を払うことでしたが、これからはきちんと外で通用するスキルを身につけることを支援することも求められていくと考え、検討しています。その他、育児休暇6年、育「自分」休暇6年、ルールはありますが副業OKなどの制度もあります。
「人事制度は社員へのメッセージ」(山田氏)
サイボウズが制度を創るときのポリシーに「多くの人がより成長して長く働いてもらいたい」というものがあります。制度を作るうえで大切にしていることは『合理性6、メッセージ性3、わびさび1』のバランスです。この中でもメッセージ性がとても大事です。みんな費用対効果とか、合理性だけでやってしまおうとしますが、本当はとても難しい。育児休暇6年についても合理性はないが、6年経っても帰ってきて欲しいというメッセージ性はある。そのうえで一つ一つの人事制度対して、どういう理由で創ったのかということを考え、共有することが大切。人事制度は福利厚生ではなく、あくまで生産性向上のためです。「生産性が向上していないのであれば、この制度はやりません。単純に社員を楽にするためにとか、お給料の代わりにやっている制度ではありません」というメッセージを出すことも大切です。
また、社員のモチベーションについては「この会社でこの仕事がしたいと思えて、選択肢の中から自分が選んでいる」と思えることが大事です。会社としてやるべきことは、きちんと成長出来ることを増やしてあげて、選択肢を増やすことです。ライフがあってワークがある。人はどういう生き方をしたいかということを考えて働きます。生き方や働き方の価値観は人それぞれ、人事制度も理想を言えば100人100通りの制度を作っていくのが大事だと考えています。つまり人事制度は変えるものではなく、増やすものだと思っています。
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ゲストスピーカーからのストーリーテリングの後、参加者同士で感想をシェアし、その後のQ&Aタイムでは、
「今までの人事制度で特に失敗したと感じたことは何ですか?」
「企業規模が1万人だと、同じような制度を導入するのは難しいのではないですか?」
「副業やっているメンバーの本業が疎かになった事例はありませんか?」
など、多くの感想や質問がでました。
山田さん曰く「大事なことはやっぱり評価だと思います。アウトプットが減ってる人に同じお給料をあげ続けることがまず間違いで、アウトプットが減った場合には、評価の摺合せが一番大事なことだと思います。評価とセットにするってことを必ずやっておけば、そんなに問題にはならないと思っています。今のところ問題を感じていません。」
(Q&Aタイム)
「仕事選びの軸は『意思決定権』、自分で決めることが面白さにつながる」(小緑氏)
2人目は個人側ゲストスピーカーの小緑さん。2012年の6月から独立し、4つの組織に属しながら収入を得てご自身で活動されています。第一子が生まれたことをきっかけに、働き方を変えられました。
軽快なトークで「夢や志は特にない。ただ自身の働き方・生き方を振り返ると、昔から意識してきたことが一つあるが、それは「全力で楽しく生きたい」ということ。この思いは結構誰にもまけないのではないか」という小緑さん、ご自身の等身大の生き方・働き方について「過去」「現在」「未来」にわけてお話いただきました。
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まずは私の過去の話から。20代は超ハードワークの時代でした。思いっきり仕事をしたい、思いっきり楽しみたいと考え、学生の就職支援、企業の採用支援をしているジョブウェブに入社しました。私自身、就職活動で企業を選ぶ際の一番の軸は、「自分で意思決定できるかどうか」という点でした。そのため、就職後たくさん勉強もしました。意思決定ができるようになると、面白さが増し、目の前のことを本気でやりきる充実感を得ることができました。ジョブウェブでは、営業、企画、マネージメントや自社の採用と本当に幅広くやらせてもらいました。仕事というのは、全部やるのが当たり前だと思っていたし、365日24時間に近いくらい、寝袋を持って働いていました。そして、採用の仕事というのは、ただの当て込みではなく、組織に、一人ひとり個性が違う人を当てはめる全体最適をはかることであり、それこそが自分の介在価値であると気がつきました。そして、配置についたあとに、しっかりパフォーマンスを発揮できるように、能力開発してあげることが教育であり、採用+教育の二つに関わることはめちゃめちゃ熱く、面白いのではないだろうかと考えるようになりました。そんな中、私も結婚し子宝に恵まれました。
(小緑さんのストーリーテリング)
「家族との時間を最優先に。その上で仕事で成果を出し続ける」(小緑氏)
現在は、家族第一主義で仕事の時間も家族の時間も楽しみたいと思っています。息子が0歳から1歳になる間、もの凄い速さの成長の過程を見たので、この過程を間近で見られないというのは、将来後悔する大きな要素になりえるなと実感しました。だからこそ、一日があるならば、「(一日)-(仕事)」の残りで家族の時間を確保するのではなく、「(一日)-(家族)」と最初に家族の時間を確保することにしました。独立後、私を受け入れてくれる周りの企業や組織があったことは、「働く価値観の多様化」という時代の後押しもあったと思います。
現在は採用と教育というドメインで4つの組織に属しています。大きく言うと、アスタンスという僕の会社が大きい枠組みになっていて、その上で公益財団法人日本ユースリーダー協会、ジャンプ株式会社、ジョブウェブにも色々お仕事を頂いているような状態です。業務委託やプロジェクト参加型と言う形で仕事をやっていますが、毎月の固定フィーでの契約もあるので経済的には非常に安定しています。本当にありがたいなと思っています。これもご縁かなと思っています
ただ複数の組織に関わり、出社回数も決まっていない中で、絶対にはずしてはいけないと考えているのは、「なにがなんでも成果を出す」ということです。現在のようにプロジェクト型で関わっているからこそ、成果を出さなくては自分の存在意義も無くなると思っています。短い間でいかに成果を出すのか、オン・オフをしっかり切り替え、色々なツールをつかったり、工夫をしています。これが私の現在です。
未来については、これから色々と挑戦していきたいと思います。現在、仕事についても非常に順調ですが、波があると思います。そんなに人生うまくいかないということもよく分かっています。なので、落ちた時にどう改善するかが重要かと思っています。今もこれからも、絶対楽しむという気持ちは変わりません。その中で特に未来に向けては「自己信頼」「自己肯定感」「自分への自信」ということをキーワードに、ビジネスや新しい取り組みを仕掛けていきたいと考えています。
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Q&Aタイムでは
「小緑さんの両親はどんな方ですか?」
「プレゼンの中で奥様のキャリアのお話があったが、家では奥様と仕事を含めどんな会話が多いのですか?」
「教育ということも仕事のドメインになっているかと思いますが、これまでの2年半の子育てで、これは仕事にもいかせるなと思った気づきやエピソードがあれば教えてください」
など、多くの感想や質問がでました。
小緑さん曰く「育児書はビジネス本よりもビジネスが学べる、本質的な本が多いと思っています。言葉が通じない小さな子供に対して、しっかり自分のコミュニケーションとして、意図とか目的を伝えるためにはどうすればいいかというと、単に「言葉だけ」という話じゃなくなってくるんですよね。そういう部分を考えられた育児書は、もの凄くビジネスに使えるなと思っています。」
「採用において、自分で考えて行動できる人とか、論理的思考能力というのはどこの会社も条件として挙げているが、その根底は自己肯定感だと思うのです。自分に自信がある人は、失敗しても自分の存在自体が揺るがないので、次の一歩を考えて踏みだすことができるんです。この根底の存在に気づいたことが、子育てを通した大きな気づきで、これは仕事を進める上でも、通じる部分かなと思っています。」
「今、仮説として、自己肯定感を育むのに必要なものは2つだと思っています。一つは、幼少期の親から愛される経験。この世に生まれてきてよかった、自分がここに存在していいんだという根底の愛されている感。これがあれば、どんな失敗をしても次に一歩踏み出す大きな力になると思うんですね。もう一つは、やりきる経験です。やりきった経験がある人は、自信からくる言葉に心が入っているので、相手に想いが届きます。コミュニケーションにおいても相手から信頼を貰う前に、まず自分のことを自分自身が信頼出来ているかが本当に重要だと思っています。やりきる体験というのは、小さな失敗や成功を積み重ねることで出来ると思っていますし、大人になっても可能な部分だと思っています。」
(Q&Aタイム)
ダイアローグテーマ1:「あなたにとって理想の働き方は?」
ダイアローグテーマ2:「理想の働き方を実現するのに必要なものは?」
後半のワールドカフェでは、「あなたにとって理想の働き方は?」「理想の働き方を実現するのに必要なものは何ですか?」をテーマにグループでダイアローグを行いました。
(ダイアローグの様子)
全体のシェアタイムには、
「ライフとワークのバランスを取る働き方を実践するためにはやはり仕事におけるプロとしてのレベルを超える成果を出すことが大切。そのためには根本的なところで、相手の求めている事を理解するということが非常に重要だと感じました。」
「テーマ1ではグループに独立を考えている方がいるなど、個人の働き方という視点でディスカッションがされた。テーマ2では逆に組織に所属されている方も多く、組織として「どういう仕組みを作ればよいのか」とか「どのようにチームビルディングをするんだ」という話題になり、まさに働き方というのは個人と組織の双方の観点が必要だと感じた。ただどちらにも通じるものとして「まず行動する」ということが凄く大事なのかなと思いました。」などの意見がでました。
(全体でのシェアタイム)
そして、会の最後に山田さん、小緑さんから一言ずついただきました。
今まで、経営というのはずっと会社の利益のためにされてきたような気がしている。利益は人件費を削って出るもので、その利益を取るのは株主の人。それを当たり前としてみんなが働いてきたけれど、その結果少子化となっている。なんなんだそれはと。本当は、人を増やすとか、何かが維持されていくというような事の為に働いているのに、働けば働くほど人が減っていく世の中は根本的に何かおかしい。
人を増やす、維持するということにのみ、本気で僕達は取り組んでいかなければならないと思うんです。そういうところにちゃんと投資をしたい、トコトン賭けてみたい。
それをやることで僕ら一人ひとりが働きやすい環境をつくって、みんなが生きる為に頑張っていったら、うまくいかない訳がないんじゃないかなって思っている。(山田理氏)
いろんな組織に属しながら働いている僕の最近の気づきは「空気を読む・読まない」という話です。空気をいい意味で読まないことが、本当に大切だと思っています。
「空気を読む」ということは、「言動価値」と「言動タイミング」の二つに因数分解されると思っています。ビジネスの場やチームで成果を上げてく場では、「言動タイミング」より「言動価値」が求められていると思うのです。組織の成果を考え、言動価値についても考えた上であれば、タイミングを無視してでも発言するのが本当に大切だと最近感じています。
ただ、プライベートの場では、タイミングを大切にしながら仲良くコミュニケーションすることも、とても重要だと思っています(笑)。」(小緑直樹氏)
終了後のアンケートでは、
「山田さん、小緑さんのプレゼンが大変いい勉強になりました。又、テーブルでも多くの業種の方と出会え、話せて自分の生活や仕事の仕方の参考になりました」(音楽業界 営業)
「多様な業種の方々の働き方、考え方が非常に参考になりました。特に自分の会社の“当たり前”が“当たり前でないこと”に驚くと同時に“もっとやれるはず”と再認識させていただきました」(投資会社 経営者)
「このようなセッションを“社会を変えるきっかけ“にできればと思うくらいエネルギーにあふれた場でした」(NPO スタッフ)
「就活生の時に聞きたかったというのが素直な感想です。社会人の方がざっくばらんに話してくださるのが本当に貴重で嬉しかったです」(私立大学4年生)
「今進もうとしている、働きながら事業を手掛けるということに対して有意義な内容でした」(大手家電メーカー システムエンジニア)
最後になりましたが、今回の我々の活動に共感していただき、会場をお貸しいただいた大成建設の小野眞司さん、ありがとうございました。またご参加いただきました多くの皆様、本当にありがとうございました。